「言ったのに、違う形で返ってくる」「同じことを何度も聞き返されて、現場の手が止まる」——障害者雇用の現場や就労支援の現場で、こうした"伝わらなさ"に悩んだことはありませんか。
多くの場合、原因は本人の「能力」ではありません。指示を出す側と受け取る側で、「指示の粒度(言葉の細かさ・具体性)」が揃っていないことがほとんどです。
さちなびは札幌市西区・琴似で就労継続支援A型事業所を運営し、日々さまざまな特性のある方に作業指示を出しています。この記事では、私たちが現場で実践している「指示の粒度を揃える」考え方と、すぐに使えるチェックポイント・言い換え例を紹介します。企業の人事・現場責任者の方、就労支援の同業の方、そしてご家族の方にも参考にしていただける内容です。
そもそも「言葉の粒度」とは?
「粒度」とは、指示に含まれる情報の細かさ・具体性のレベルのことです。同じ作業でも、伝え方の粒度によって相手の理解度は大きく変わります。
粗い指示(目的):「梱包お願い」「掃除しといて」
中粒(手順の概要):「袋に入れて、シール貼って、箱に入れて」
細粒(行動+基準):「袋はこの向き/シールは右上2cm/10個で1箱」
粒度が粗すぎれば「どこまでやればいいか」が分からず、細かすぎれば情報量が多すぎて覚えきれません。
大切なのは、相手に合った粒度を選ぶことです。
なぜ障害者雇用の現場では「指示の粒度」が特に重要なのか
合理的配慮というと、物理的な設備や勤務時間の調整をイメージされる方も多いかもしれません。ですが実際の現場でご本人・企業双方の負担になりやすいのは、日々の「指示の出し方」そのものです。
曖昧な指示を「察してもらう」ことに頼ると、本人にも指導する側にもストレスが溜まります
「何度も同じ確認をしてしまう」「聞き返しにくい雰囲気になる」といったすれ違いは、本人の能力ではなく指示設計の問題であることが多いです
指示の粒度を揃えることは、特別な配慮というより「誰にとっても分かりやすい指示」を設計すること(=ユニバーサルデザイン的な現場改善)でもあります
さちなびでは、こうした指示設計の工夫を合理的配慮の実務の一部として位置づけ、日々のOJTに取り入れています。
伝わらない現場で起きている“ズレ”3パターン
① 粗すぎる:目的だけを伝え、完了基準が本人に委ねられている
何から始める?どこまでが完了?が分からない
② 中途半端:手順は伝えたが、品質基準(どこまでやればOKか)が抜けている
“できたつもり”になるが品質がバラつく
③ 細かすぎる:情報を詰め込みすぎて、途中の指示が記憶から抜け落ちる
一度に言い過ぎて覚えられない/混乱する
まずは自分の指示が、このどれに当てはまりやすいかを振り返ってみましょう。
粒度を合わせる最短ルール:「1タスク=1指示」
複数の作業をまとめて伝えるのではなく、1つの指示には1つの作業だけを乗せることが、粒度を揃える最短ルートです。
✕「これ片付けて、終わったらあっちも手伝って、あと電話が鳴ったら取ってね」
○「まずこれを片付けてください」→ 完了確認 →「次はあちらをお願いします」
指示を分割するだけで、聞き返しの回数もミスも大きく減ります。
粒度を調整する「4つのチェックポイント」
指示を出す前に、次の4点が含まれているか確認します。
開始点:どこから始めるか
終了点:どこまでやったら終わりか
品質基準:何を守れば合格か
例外対応:迷ったときはどうするか
この4つが揃っていれば、粒度は自然と「伝わるレベル」になります。
仕事別:粒度の見直し例
① 梱包・袋詰め(軽作業)
粗い指示:「袋詰めして」
改善(中粒):「10個ずつ袋詰め→シール→箱」
改善(細粒):
「袋はA、表はこの向き」
「シールは右上、角から指1本分」
「10個で1セット、数えたらチェックを付ける」
“基準”は写真1枚にするとわかりやすいです。
② 清掃(現場系)
粗い指示:「トイレ掃除お願い」
改善(中粒):「便器→床→備品→チェック」
改善(細粒):
「便座裏まで拭く」
「床は奥→手前」
「ペーパー補充は残り2個以下なら補充」
「最後に匂い・水滴を確認」
清掃は 開始点(道具)と終了点(チェック)が重要です。
③ 事務・入力(デスクワーク)
粗い指示:「このデータ入力して」
改善(中粒):「A列は日付、B列は金額、C列は摘要」
改善(細粒):
「日付はYYYY/MM/DD」
「金額は半角、カンマ不要」
「不明は空欄で止めてメモ」
事務は フォーマット+例外ルールでミスが激減します。
💬 伝わる指示に変える「言い方テンプレ」
✅ テンプレA(最短)
「まずAだけ。終わったら声かけて」
✅ テンプレB(粒度4点入り)
「ここから始めて(開始点)、ここまでやったら終わり(終了点)。合格はこれ(基準)。迷ったら止めて聞いて(例外)。」
✅ テンプレC(不安が強い人向け)
「一緒に最初の1回だけやって、次は見ながらやってみよう」
“伝わったか”を確認する方法(テストではなく調整)
指示を出した後は、次の3点を本人に聞いてみましょう。
「最初に何をする?」
「終わりはどこ?」
「迷ったらどうする?」
この3つに本人の言葉でスムーズに答えられれば、粒度は適切に伝わっています。
答えに詰まる部分があれば、そこが今回の指示で粒度が合っていなかった箇所です。
まとめ
🟠 指示の粒度を揃えると、なぜミスが減るのか
ミスの多くは「本人の解釈」と「指示者の意図」のズレから生まれます。開始点・終了点・品質基準・例外対応の4点を明確にすることで解釈の余地が減り、結果としてミスや手戻りが減ります。
🟠 発達障害のある方への指示も同じでいいか
基本的な考え方は共通ですが、特性によって「細粒の指示の方が安心する方」「情報量が多いと混乱しやすい方」など個人差があります。まずは4つのチェックポイントをベースに、本人の反応を見ながら粒度を微調整することをおすすめします。
🟠 合理的配慮として「指示の出し方」を見直すには何から始めればいいか
特別な制度やツールを導入する前に、まずは「1タスク=1指示」の原則を試すだけでも変化を感じやすいです。次に、よく発生するミスや聞き返しが多い作業から順に、4つのチェックポイントで指示を書き直してみることをおすすめします。
🟠 就労継続支援A型事業所では、実際にどんな指示の工夫をしていますか
さちなびでは、作業ごとに「開始点・終了点・品質基準・例外対応」をあらかじめ言語化し、OJT担当者間で指示の粒度がぶれないように共有しています。関連の取り組みは下記の記事でも紹介しています。
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指示が伝わらないとき、原因を「本人の能力」に求める前に、まず指示側の粒度を見直してみてください。
「1タスク=1指示」「4つのチェックポイント」「伝わったかの3つの確認」——この3ステップだけで、現場のすれ違いは大きく減らせます。
指示の粒度を揃える工夫は、特別な設備投資なしで始められる合理的配慮の一歩です。
まずは日々のミスが多い作業から見直してみてください。
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